まだ出題編を読まれていないからは是非出題編を自力で解いてから解説編をお読みください。
それではここからは詐欺師の増田さん(仮名)に実際に出題編の中に張り巡らされた伏線を解説していただきながら見ていきましょう。
「そんな一言にも意味があったのか」と、どこが詐欺のポイントだったのかきっと驚かれると思います。
銀座のクラブでママに紹介してもらう
人間は何度も顔を合わせた人間を信用するようになる習性があります。
「共通の知り合いがいる」というのも思わず信用してしまう要素の一つです。
ですから会ったその日に投資を持ちかけたりすることはありません。
また、一緒にいる人間がその人物の信頼を示すので、上場企業の役員や有名企業の方などと一緒に行動し、外堀から信用を高めていくのです。
年間利回り12%
利回りは現在ドル建てでも3%~6%、リスクのあるPEファンドでも8~10%程度が相場です。
12%というのは絶妙に高い(=ありえる数字)であり、およそ6年で資金が倍になる利回りです。
下手な詐欺師は「利回り20%」とか、「1年で投資が回収できます」などありえない利回りを提案しますが、本当の富裕層はそんな利回りには騙されません。知識のある人ほど逆に怪しいと考えるでしょう。12%というのはありえるかもしれない、絶妙な高利回りのラインなのです。
相手に考えさせる
理屈の筋が通っていることも重要ですが、もっと大事なのは”相手に気づかせること”です。
「リーマンショック以来ずっと」など、細部において鷺山が説明するのではなく、あなたに閃かせる仕掛けが施されています。
人間は自分のアイデアや自分のひらめきを重視する傾向があり、相手に言われたことは嘘ではないかと警戒しますが、自分が閃いた事実は信用してしまいます。そしてこのことがこの話全体の蓋然性(「物事が起こる確実性の度合い」「確からしさ」という意味)を高めてしまうのです。
自分からは最後まで勧誘しない
一口3億という数字を聞いて、ほとんどの方は警戒しますし実際出せないという話になります。
ここで、「いや、今回だけは特別に」なんて勧誘の仕方をするのは最悪です。
「あなたはお金がないので今回は無理ですね」と暗に突き放すくらいの対応をしています。
人間はちゃんとした儲け話には自分から食いついてくるものです。逆に勧誘されると警戒が高まるので勧誘はしないようにしているのです。羨ましいと思わせることが大事なのです。
自分にもメリットがあることを伝えておく
今回鷺山は運用会社の営業として、当然お客さんを呼んでくればボーナスが出ます。
「うまい話はあるはずがない」と警戒している人は多いので、自分にもちゃんとメリットがあるということを伝え、相手に感謝を示すことがポイントです。
雑所得だからすみませんの一言
運用ではなく借金のテイになることで、税金が上がることを謝っていますが、これはリスクを明示することで逆に信頼を得る手法の一つです。投資ではなく、その他の細かい点のリスクに話をそらすことで運用自体は安全であるとさらに思い込ませる効果があります。
嘘田さんが嫌がっているという嘘
嘘田さんが心配している。嘘田さんがあなたに会いたがっている。という話により、「鷺山&嘘田vsあなた」の構図ではなく、「鷺山&あなたvs嘘田」という構図が出来上がります。
あなたはむしろ嘘田さんを説得し投資させることが目的となるため、より一層前のめりでこの話に乗っていくことになるのです。
福利運用にすることで事件の発覚が遅れる
金融知識がある程度ある方であれば、配当金よりも複利運用の方がメリットがあることは知っています。もし仮に「絶対に毎年の配当でなければ嫌だ」となったとしても、ポンジ方式で2年くらいお金を払えば全く問題ありません。
福利にすれば10年の福利運用にすることで事件の発覚が10年後になるというメリットもあります。詐欺の時効は事件発覚から7年ですので、時効にはなりませんが、10年も立てば監視カメラや銀座のクラブの帳簿などあらゆる証拠がなくなるため、警察も10年前の詐欺事件の捜査を立証することは難しいでしょう。
80%という数字の妙
80%という聞くと”ほとんど”という印象を受けますが、実際には80%の事象が3連続で起こる可能性は0.8✖️0.8✖️0.8=51%にまで下がります。つまり3回連続で当たる可能性は半分であり、1回くらい外しても当然という言い訳ができるのです。
なぜ3回連続で株価を当てることができたのか
この謎がこの詐欺の一番のカラクリです。
実は仕組みはシンプルで、8人の社長を同時に騙しているのです。
A社が上がるか下がるかは50%
B社が上がるか下がるかも50%
C社が上がるか下がるかも50%
ですが、8人の人間にそれぞれ真逆の決算を教えることで、『必ず1人は3連続で決算が当たります』
また、もし1社間違えたとしても、前述の通り3連続で当たる可能性は50%程度ですので、「まぁ一度くらい外れることもあるか」と前向きに考えてくれる社長さんもいます。
8人を同時に騙せば
1人は3連続で当たり、3人は2/3回は当たることになります。
つまり4人は実際に利益を得ることになるため、2,3人は投資したいと言うようになるのです。
”実体験として利益を上げさせる”というのが大事なポイントです。
嘘田さんは一体何者だったのか?
嘘田は当然、鷺山の仲間の詐欺師です。名前も偽名、銀行口座もホームレスから買い取ったダミー口座になっています。ホームレスに銀行口座を作らせ、それを5万〜20万ほどで買い取ります。嘘田はそのホームレスの名前を名乗り、自分の口座に振り込ませているだけなのです。
契約書も適当な印鑑を作って捺印しているに過ぎません。
探そうと思っても、嘘田を探し出すことすらできないのです。
ここだけの話にする
ここだけの話として秘密化するのも重要です。これは秘密を共有することが大事、という精神的な意味ではなく、共通の知り合いと話を共有されることを避けるためです。
例えば今回でいえば、一番最初に出てきた”〇〇商事の役員さん”というのはあなた同様、詐欺のカモなのですが、この人には株価の上下に関して全く逆のことを説明しています。ですので万が一「今度の◻︎◻︎自動車の株が上がるって聞きました」と話を共有されてしまうと、「あれ?私は下がると聞きましたよ?」とネタがバレることになってしまうのです。秘密にしてくれ、と言っている以上、私の知り合いには少なくとも口外しませんから、そういったネタバレを防ぐための秘密化なのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
詐欺に騙されない手法を検索すると、多くの場合
・そんな儲かる話なら他人に紹介しない
・絶対に儲かる話なんてありえない
という説明が出てきます。これは簡単な詐欺には騙されない手法かもしれませんが、実際にお金持ちを狙っている詐欺師は一度に得る金額が大きいこともあり、とても用意周到です。
ゆっくりと時間をかけ信頼を醸成し、確からしい理屈であなたを誘い込むのです。
自分は詐欺に騙されない、と思っている人こそ最新の詐欺には注意する必要があるのかもしれません。
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